文部科学省 科学研究費補助金

公募研究

これまで細胞死は細胞の一生の最終過程であり、生じた死細胞は単に捨て去られる存在であると考えられてきた。ところが近年、この死細胞が実は情報の発信源となり、免疫応答、炎症、修復、再生、線維化といった細胞死後に起こる様々な生体応答の起点となっていることが明らかとなってきた。
本領域では、この死細胞から発信されるメッセージをダイイングコードと名付け、その同定と機能解析を通して、細胞死を起点とする生体制御ネットワークの全容の解明を目指す。生体に存在する複数の細胞死プログラムが、それぞれどのような生理的•病理的状況で実行されるのかを明らかにするとともに、各細胞死に固有のダイイングコードが、細胞死後の生体応答に果たす役割を明らかにする。これらの解析により、最終的に生体内での各細胞死プログラムの存在意義を詳らかにすることを目指す。
このため、以下の研究項目について、「計画研究」により重点的に研究を推進するとともに、これらに関連する2年間の研究を公募する。1年間の研究は公募の対象としない。また、研究分担者を置くことはできない。
公募研究の採択目安件数は、単年度当たりの応募額500万円を上限とする研究を6件程度、300万円を上限とする研究を8件程度予定している。
特に、組織傷害後の再生や修復に関与するダイイングコードの研究、マウス疾患モデルやヒト疾患の病態を規定する新規ダイイングコードの同定とその役割に関する研究、モデル動物を用いて発生や再生における細胞死およびダイイングコードの意義を明らかにする研究、および細胞死イメージング研究を歓迎する。また、これまでの枠にとらわれない、独創的な研究を展開する若手研究者の積極的な応募を期待する。

 

(研究項目)
A01:多様な細胞死の分子機構と生体内での補足
種々の細胞死が実行される分子メカニズムを解明することにより、各細胞死の特異性を分子レベルで定義し、それぞれの細胞死をマウス生体内で特異的に検出するシステムを構築する。また、各細胞死の実行に必要な特異的遺伝子の欠損マウスの作製や細胞死阻害剤の開発を通して、個々の細胞死の生理的・病理的役割を明らかにする。

 

(平成27~28年度)

Caspase-8と10それぞれが阻害する二種類の新規細胞死の解析

HP用写真米原先生

研究代表者 米原 伸 (京都大学大学院生命科学研究科高次遺伝情報学分野)

http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/Fas/Home_j.htm

デスレセプターFasを発見・命名して以来、細胞死に関連した研究を分子・細胞・生体レベルで実施している。本研究領域では、Fas誘導アポトーシスに必須のcaspase-8が抑制するIFN-γが誘導する計画的ネクローシスの分子機構(二つの異なった機構が存在する)と、caspase-8に近縁のcaspase-10が抑制するがん細胞特異的な新規細胞死の分子機構と生理機能の研究を行っていく予定である。

 

1. Yonehara S, Ishii A, and Yonehara M.

A cell-killing monoclonal antibody (anti-Fas) to a cell surface antigen co-downregulated with the receptor of tumor necrosis factor.

Exp. Med. 169:1747-56. 1989

2. Kikuchi M, Kuroki S, Kayama M, Sakaguchi S, Lee KK, Yonehara S.

Protease activity of procaspase-8 is essential for cell survival by inhibiting both apoptotic and nonapoptotic cell death dependent on receptor interacting protein kinase 1 (RIP1) and RIP3.

Boil. Chem. 287: 41165-73. 2012

 

(平成27~28年度)

異常レベルに応じた選択的な細胞死誘導

HP用写真谷口先生

研究代表者 谷口喜一郎  (学習院大学理学部生命科学科)

http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~e090001/

増殖能力の低い組織では、分化細胞を長期間維持するため、細胞死が誘導されにくい傾向がある。一方で、細胞死誘導の回避は、外的ストレスにより生じる各種異常の蓄積につながり、恒常性破綻のリスクを増大させる。このため組織は、異常レベルを検出し、リスクの高い細胞のみを排除していると予想される。本研究では、ショウジョウバエ非再生系組織を用い、“異常レベルに応じた細胞の生存/排除振り分け機構”の解明に取り組む。

 

1. Taniguchi K, Kokuryo A, Imano T, Minami R, Nakagoshi H, Adachi-Yamada T.

Isoform-specific functions of Mud/NuMA mediate binucleation of Drosophila male accessory gland cells

BMC Dev. Biol. 4:46. 2014

2. Taniguchi K, Maeda R, Ando T, Okumura T, Nakazawa N, Hatori R, Nakamura M, Hozumi S, Fujiwara H, Matsuno K.

Chirality in planar cell shape contributes to left-right asymmetric epithelial morphogenesis.

Science 333:339-41. 2011

 

(平成27~28年度)

in vivoの核の分解過程に着目した新しい細胞死経路の探索

HP用写真小池先生

研究代表者 小池正人(順天堂大学大学院医学系研究科神経機能構造学講座) 

http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/shinkei_kozo/

小児の神経変性疾患のモデルマウスのカテプシンD欠損マウスの中枢神経系・網膜の細胞死、低酸素—脳虚血負荷後の海馬の神経細胞死の系におけるCADによらない核酸分解酵素の関与、ネクロプトーシスの関与などを遺伝学的に検討することにより神経細胞死の分子機構を明らかにしたいと考えております。併せてこれまで行ってきた細胞死の形態学的解析をさらに発展させ、電顕三次元立体構築による細胞死の解析系を立ち上げます。

 

1. Asano T, Koike M, Sakata S, Takeda Y, Nakagawa T, Hatano T, Ohashi S, Funayama M, Yoshimi K, Asanuma M, Toyokuni S, Mochizuki S, Uchiyama Y, Hattori N, Iwai K.

Iron induces mitochondrial damage that recruits parkin.

Neurosci. Lett. 588:29-35. 2015

2. Koike M, Tanida I, Nanao T, Tada N, Iwata J, Ueno T, Kominami E, Uchiyama Y.

Enrichment of GABARAP relative to LC3 in the axonal initial segments of neurons.

PLoS One 8:e63568. 2013

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

細胞死を起点とするダイイングコード授受の1細胞実時間イメージングと遺伝子発現解析

HP用写真白崎先生

研究代表者 白崎善隆 (東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)

http://www.biochem.s.u-tokyo.ac.jp/uemura-lab/japanese/home_ja.html

細胞死に伴い細胞外に放出されるダイイングコードは、感染時に免疫応答を惹起することが知られています。本研究では、ダイイングコードの授受を1細胞の分解能で検出する1細胞分泌実時間イメージング法と1細胞RNAシーケンス法を駆使し、ダイイングコードを授受した細胞内ではどのような遺伝子発現変化が生じているのかを明らかにすることを目指します。

 

1. Liu T, Yamaguchi Y, Shirasaki Y, Shikada K, Yamagishi M, Hoshino K, Kaisho T, Takemoto K, Suzuki T, Kuranaga E, Ohara O, *Miura M.

Real-time single cell analysis provides direct evidence that digital activation of caspase-1 couples macrophage cell death and IL-1b secretion.

Cell Rep. 8: 974-82. 2014

2. Shirasaki Y, Yamagishi M, Suzuki N, Izawa K, Nakahara A, Mizuno J, Shoji S, Heike T, Harada Y, Nishikomori R, *Ohara O.

Real-time single-cell imaging of protein secretion.

Sci. Rep. 4: 4736. 2014

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

活性酸素誘導性ネクローシスにおける細胞死誘導シグナルの捕捉と可視化

佐藤先生写真

研究代表者 佐藤伸一 (東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所)

http://syn.res.titech.ac.jp/

計画的ネクローシスに共通する細胞死シグナルとしての活性酸素に着目し、細胞死に関わる活性酸素代謝における酸化的な細胞死誘導シグナルを捕捉する。我々が見出した“一電子酸化反応によるラジカル的なタンパク質ラベル化”という有機化学反応を活用し、ケミカルバイオロジーの手法によって活性酸素の代謝経路・細胞損傷メカニズムの解明、新規細胞死制御剤の開発に取り組む。

 

1. Sato S, Nakamura K, Nakamura H.

Horseradish-Peroxidase-Catalyzed Tyrosine Click Reaction.

Chem. Bio. Chem. 18: 475-8. 2017

2. Sato S, Nakamura K, Nakamura H.

Tyrosine-Specific Chemical Modification with in Situ Hemin-Activated Luminol Derivatives.

ACS Chem. Biol. 10: 2633-40. 2015

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

統合的ストレス応答による肝再生過程の細胞死様式の調節メカニズムの解明

HP用写真井上先生

研究代表者 井上 啓 (金沢大学新学術創成研究機構革新的統合バイオ研究コア栄養・代謝研究ユニット)

http://inoue.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html

脂肪肝では、障害からの再生が障害される。脂肪肝での再生障害は、統合的ストレス応答による肝細胞死の増加と関連する。軽度脂肪肝では、統合的ストレス応答は軽微で孤発性肝細胞死が誘導されるが、高度脂肪肝では、統合的ストレス応答も強く、広汎肝細胞死が誘導される。本研究では、脂肪肝の多寡による細胞死制御の仕組みを解明する。主に、統合的ストレス応答で誘導される転写因子CHOPやATF3の役割を検討する。

 

1. Kimura K, Tanida M, Nagata N, Inaba Y, Watanabe H, Nagashimada M, Ota T, Asahara S, Kido Y, Matsumoto M, Toshinai K, Nakazato M, Shibamoto T, Kaneko S, Kasuga M, Inoue H.

Central Insulin Action Activates Kupffer Cells by Suppressing Hepatic Vagal Activation via the Nicotinic Alpha 7 Acetylcholine Receptor.

Cell Rep. 14: 2362-74. 2016

2. Inaba Y, Furutani T, Kimura K, Watanabe H, Haga S, Kido Y, Matsumoto M, Yamamoto Y, Harada K, Kaneko S, Oyadomari S, Ozaki M, Kasuga M, *Inoue H.

Gadd34 regulates liver regeneration in hepatic steatosis.

Hepatology 61: 1343-56. 2015

 

(平成29~30年度)

LUBACによる細胞死とIL-1b産生調節機構の解析

佐々木義輝先生写真HP用

研究代表者 佐々木義輝 (京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学)

http://www.mcp.med.kyoto-u.ac.jp

直鎖状ポリユビキチン鎖は、ユビキチンリガーゼ複合体LUBACによって選択的に生成されNF-κBの活性化や細胞死を抑制する機能を持つ。LUBAC欠損マクロファージがLPS刺激によって細胞死を起こすと同時に成熟型IL-1βを産生する事を発見した。そこで本研究では、LUBACによるLPS刺激依存的な細胞死と成熟型IL-1β産生の制御機構を明らかにするとともに、個体レベルでLUBAC欠損マクロファージが炎症反応にどのように関与するのかを解析する。

 

1. Sasaki Y, Sano S, Nakahara M, Murata S, Kometani K, Aiba Y, Sakamoto S, Watanabe Y, Tanaka, K, Kurosaki T, Iwai K.

Defective immune responses in mice lacking LUBAC-mediated linear ubiquitination in B cells.

EMBO J. 32: 2463-76. 2013

2. Calado DP, Sasaki Y, Godinho SA, Pellerin A, Köchert K, Sleckman BP, de Alborán IG, Janz M, Roding S, *Rajewsky K.

The cell-cycle regulator c-Myc is essential for the formation and maintenance of germinal centers.

Nat. Immunol. 13: 1092-100, 2012

 

(平成29~30年度)

リン脂質の膜動態と細胞死

瀬川先生HP用写真

研究代表者 瀬川勝盛 (大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫・生化学部門)

http://biochemi.ifrec.osaka-u.ac.jp

ホスファチジルセリン(PtdSer)は細胞膜の脂質二重層(外層と内層)を構成するリン脂質であり、外層と内層における局在を変化させることで細胞内外に多様なシグナルを伝達する。我々は、細胞膜におけるPtdSerの局在を制御する分子・細胞膜フリッパーゼを同定した。本研究では、PtdSerの膜動態を統合的に理解すること、細胞膜フリッパーゼの遺伝子欠損により引き起こされる病態を解明することを目指す。

 

1. Segawa K, Kurata S, Nagata S.

Human Type-IV P-type ATPases that work as plasma membrane phospholipid flippases and their regulation by caspase and calcium.

J. Biol. Chem. 291: 762-72. 2016

2. Segawa K, Kurata S, Yanagihashi Y, Brummelkamp T, Matsuda F, Nagata S.

Caspase-mediated cleavage of phospholipid flippase for apoptotic phosphatidylserine exposure.

Science 344: 1164-8. 2014

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

細菌含有膜破壊によるパイロトーシス誘導・制御メカニズムの解明

HP用写真山本先生

研究代表者 山本雅裕 (大阪大学微生物病研究所感染病態分野/大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫寄生虫学)

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/immpara/index.html

細菌感染によって引き起こされるパイロトーシスとインフラマソームの活性化は、細菌感染防御免疫応答に重要である。本研究においては、未だ機序がよくわかっていない、実際の細菌感染により誘導されるパイロトーシスの最も上流の必須イベントである病原体含有膜破壊機構を担当する分子及びその制御機構の生理的意義の解明を目的とする。

 

1. Ohshima J, Sasai M, Liu J, Yamashita K, Ma JS, Lee Y, Bando H, Howard JC, Ebisu S, Hayashi M, Takeda K, Standley DM, Frickel EM, Yamamoto M.

RabGDIα is a negative regulator of interferon-γ-inducible GTPase-dependent cell-autonomous immunity to Toxoplasma gondii.

Proc Natl Acad Sci USA. 112: E4581-90. 2015

2. Man SM, Man SM, Karki R, Sasai M, Place DE, Kesavardhana S, Temirov J, Frase S, Zhu Q, Malireddi RK, Kuriakose T, Peters JL, Neale G, Brown SA, Yamamoto M, Kanneganti TD.

IRGB10 Liberates Bacterial Ligands for Sensing by the AIM2 and Caspase-11-NLRP3 Inflammasomes.

Cell. 167:382-96. 2016

 

(平成29~30年度)

低分子化合物で探るマクロファージの炎症誘導性細胞死の機構

武田先生HP用写真

研究代表者 武田弘資 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科細胞制御学分野)

http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/lab/cell/index-j.html

炎症初期におけるマクロファージの細胞死は、炎症を積極的に惹起する際に重要な役割を担っています。その「炎症誘導性細胞死」は受動的な細胞死ではなく、制御された積極的な細胞死と考えられていますが、その包括的な理解にはまだ至っていません。私たちは最近、マクロファージの炎症誘導性細胞死を強力に抑制するいくつかの低分子化合物を見出したことから、それらをツールとしてその細胞死の機構の解明を目指します。

 

1. Honda S, Sadatomi D, Yamamura Y, Nakashioya K, Tanimura S, Takeda K.

WP1066 suppresses macrophage cell death induced by inflammasome agonists independently of its inhibitory effect on STAT3.

Cancer Sci. 108: 520-7. 2017

2. Sadatomi D, Nakashioya K, Mamiya S, Honda S, Kameyama Y, Yamamura Y, Tanimura S, Takeda K.

Mitochondrial function is required for extracellular ATP-induced NLRP3 inflammasome activation.

J. Biochem. in press. 2017

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

脂質酸化依存的新規細胞死(リポキシトーシス)実行因子の細胞及び個体での機能解析

HP用写真今井先生

研究代表者 今井浩孝 (北里大学薬学部衛生化学教室)

http://www.pharm.kitasato-u.ac.jp/eisei/eisei/Top_page.html

GPx4は酸化されたリン脂質を直接還元できるグルタチオンペルオキシダーゼである。GPx4を様々な組織で欠損させると、脂質酸化依存的新規細胞死を誘導する。GPx4欠損細胞死は抗がん剤によるフェロトーシスとは異なる細胞死であることから、リポキシトーシスと名付けた。本研究では我々が見出したリポキシトーシス実行因子lipo遺伝子の細胞、個体レベルでのリポキシトーシスにおける機能について明らかにする。

 

1. Imai, H., Matsuoka, M., Kumagai, T., Sakamoto, T. and Koumura, T.

Lipid peroxidation-dependent cell death regulated by GPx4 and Ferroptosis.

Curr. Top. Microbial. Immunol. 403: 143-170. 2017

2. Sakai O, Uchida T, Imai H, Ueta T.

Role of glutathione peroxidase 4 for oxidative homeostasis and wound repair in corneal epithelial cells.

FEBS Open. Bio. 6: 1238-47. 2016

 

(平成29~30年度)

好中球細胞外トラップを誘導する細胞死メカニズムの解明

上岡先生HP用写真

研究代表者 上岡裕治 (関西医科大学附属生命医学研究所分子遺伝学部門)

http://www3.kmu.ac.jp/molgent/

好中球は、自身のクロマチンから成る高粘着性構造体「好中球細胞外トラップ(NETs)」の放出を伴ったダイナミックな細胞死プログラム「NETosis」を行う。NETosisは自己免疫疾患や癌転移、外科手術後の急性障害の原因となる。本研究では蛍光生体イメージングを駆使し、NETosisに向かうシグナル伝達機構、細胞骨格変化、DNA放出メカニズムの解明を目指す。

 

1. Kamioka Y, Takakura K, Sumiyama K, Matsuda M.

Intravital Förster resonance energy transfer imaging reveals osteopontin‐mediated polymorphonuclear leukocyte activation by tumor cell emboli

Cancer Sci. 108: 226–35. 2017

2. Mizuno R, Kamioka Y, Kabashima K, Imajo M, Sumiyama K, Nakasho E, Ito T, Hamazaki Y, Okuchi Y, Sakai Y, Kiyokawa E, Matsuda M.

In vivo imaging reveals PKA regulation of ERK activity during neutrophil recruitment to inflamed intestines.

J. Exp. Med. 211:1123-36. 2014

 

 

A02:細胞死を起点とする生体応答とその異常
多様な死細胞を起点とするシグナルを探索・同定し、それらのシグナルの生成機構およびそれぞれの因子が担う免疫応答、炎症、修復、再生、線維化といった生体応答を明らかにする。また、それらのシグナルが誘導する有益な生体応答と、その破綻に伴う疾患の発症機構を解析し、疾患の診断や治療法確立への応用も目指す。

 

(平成27~28年度)

ネクロプトーシスにより発症する重症薬疹の機序解明

HP用写真阿部先生

研究代表者 阿部理一郎 (北海道大学医学研究科皮膚科)

http://www.derm-hokudai.jp/jp/index.html

重篤な後遺症を残し、致死的な重症薬疹(Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症)は、皮膚および角膜の上皮細胞壊死が起こることを特徴とする。最近私たちは、この細胞死がネクロプトーシスであり、annexin A1/formyl peptide receptor 1経路により誘導されることを明らかにした。このメカニズムを解明し、ネクロプトーシス阻害作用を持つ治療薬の開発を目標とする。

 

1. Saito N, Qiao H, Yanagi T, Shinkuma S, Nishimura K, Suto A, Fujita Y, Suzuki S, Nomura T, Nakamura H, Nagao K, Obuse C, Shimizu H, Abe R.

An annexin A1-FPR1 interaction contributes to necroptosis of keratinocytes in severe cutaneous adverse drug reactions.

Sci. Transl. Med. 6:245ra95. 2014

2. Saito N, Yoshioka N, Abe R, Qiao H, Fujita Y, Hoshina D, Suto A, Kase S, Kitaichi N, Ozaki M, Shimizu H.

Stevens-Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis mouse model generated by using PBMCs and the skin of patients.

J. Allergy Clin. Immunol. 131:434-41. 2013

 

(平成27~28年度)

粘膜上皮ダイイングコードによる炎症応答制御機構の解明

HP用写真渋谷先生

研究代表者 渋谷 彰 (筑波大学医学医療系 生命領域学祭研究センター

http://immuno-tsukuba.com/index.html

皮膚、腸管、気道などの粘膜上皮は、病原微生物、共生細菌などを含む外来異物に常に曝され、細胞死に陥っては新生を繰り返すターンオーバーの速い組織である。我々は、骨髄球系細胞に発現する抑制性受容体であるCD300aが新しいPhosphatidylserine 受容体であることを明らかにした。本研究では、皮膚、腸管、気道などの恒常性維持におけるCD300aの機能を明らかにする。

 

1. Totsuka N, Kim YG, Kanemaru K, Niizuma K, Umemoto E, Nagai K, Tahara-Hanaoka S, Nakahasi-Oda C, Honda S, Miyasaka M, Shibuya K, Shibuya A.

Toll-like receptor 4 and MAIR-II/CLM-4/LMIR2 immunoreceptor regulate VLA-4-mediated inflammatory monocyte migration.

Nat Commun. 5:4710. 2014

2. Kim YG, Udayanga KG, Totsuka N, Weinberg JB, Núñez G, Shibuya A.

Gut dysbiosis promotes M2 macrophage polarization and allergic airway inflammation via fungi-induced PGE₂. Cell Host Microbe. 15:95-102. 2014

 

(平成27~28年度)

急性、慢性放射線腸障害におけるダイイングコードの解明

HP用写真植松先生

研究代表者 植松 智 (千葉大学大学院医学研究院・医学部粘膜免疫学)

                                 (東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センタ-)

http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/mucosa/

http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/shizenmenekiseigyo/index.html

当研究室では、腸管粘膜に存在する個々の自然免疫細胞の機能を丹念に解析し、様々な腸管病態における免疫機構の役割を解明したいと考えています。特に、放射線照射後に誘導される細胞死を起点とした腸管の難治性の炎症病態の解明と新規治療法の開発を目指しています。

 

1.Takemura N, Kawasaki T, Kunisawa J, Sato S, Lamichhane A, Kobiyama K, Aoshi T, Ito J, Mizuguchi K, Karuppuchamy T, Matsunaga K, Miyatake S, Mori N, Tsujimura T, Satoh T, Kumagai Y, Kawai T, Standley DM, Ishii KJ, Kiyono H, Akira S,Uematsu S.

Blockade of TLR3 protects mice from lethal radiation-induced gastrointestinal syndrome.

Nat Commun.  5:3492. 2014

2. Uematsu S,Fujimoto K, Jang MH, Yang BG, Jung YJ, Nishiyama M, Sato S, Tsujimura T, Yamamoto M, Yokota Y, Kiyono H, Miyasaka M, Ishii KJ, Akira S.

Regulation of humoral and cellular gut immunity by lamina propria dendritic cells expressing Toll-like receptor 5.

Nat Immunol. 9:769-76. 2008

 

(平成27~28年度)

細胞死を介した免疫調節因子の放出機序とその意義の解明

HP用写真斉藤先生

研究代表者 齊藤達哉  (徳島大学疾患酵素学研究センターシグナル伝達と糖尿病研究部門)

HP作成中

自然免疫は病原体に対する感染防御機構であるが、誤って活性化すると過度な炎症を惹起する。そのため、自然免疫は自己免疫疾患や代謝内分泌疾患などの発症にも深く関わる。パターン認識受容体による異物感知から転写因子活性化までの情報伝達が解明される一方で、細胞死を介した自然免疫応答には不明な点が残されている。本研究では、貪食細胞の細胞死に伴う免疫調節因子の放出について、分子機構と病態生理的意義を解明する。

 

1. Misawa T, Takahama M, Kozaki T, Lee H, Zou J, Saitoh T, Akira S.

Microtubule-driven spatial arrangement of mitochondria promotes activation of the NLRP3 inflammasome.

Nat Immunol.14: 454-460. 2013

2. Saitoh T, Fujita N, Jang MH, Uematsu S, Yang BG, Satoh T, Omori H, Noda T, Yamamoto N, Komatsu M, Tanaka K, Kawai T, Tsujimura T, Takeuchi O, Yoshimori T, Akira S.

Loss of the autophagy protein Atg16L1 enhances endotoxin-induced IL-1beta production.

Nature 456:264-8. 2008

 

(平成27~28年度)

抗癌剤により死滅した癌細胞に対する自然免疫応答の解析

HP用写真河合先生

研究代表者 河合太郎  (奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科

分子免疫制御)

http://bsw3.naist.jp/kawai/

これまで、Toll-like receptors (TLRs)やRIG-I-likereceptors (RLRs)を介したウイルスRNA認識機構ならびに下流シグナル伝達経路の解析を通してウイルスに対する自然免疫応答について研究を行ってきた。現在、ウイルス感染やストレス刺激により活性化される細胞死シグナル伝達経路の解析と、それに伴い放出される内在性因子による炎症惹起や獲得免疫形成機構の解明を目指している。

 

1. Kawasaki T, Takemura N, Standley DM, Akira S, Kawai T.

The second messenger phosphatidylinositol-5-phosphate facilitates antiviral innate immune signaling.

Cell Host Microbe. 14:148-58. 2013

2. Zou J, Kawai T, Tsuchida T, Kozaki T, Tanaka H, Shin KS, Kumar H, Akira S.

Poly IC triggers a cathepsin D- and IPS-1-dependent pathway to enhance cytokine production and mediate dendritic cell necroptosis.

Immunity 38:717-28. 2013

 

(平成27~28年度)

計画的細胞死に共役した細胞内小胞輸送の改変と細胞外シグナルの生成

HP用写真鎌田先生

研究代表者 鎌田英明  (広島大学大学院医歯薬保健学研究院医化学研究室)

http://home.hiroshima-u.ac.jp/ikagaku/index.html

TNFaはIKKbからNF-kBにいたる経路を介して遺伝子発現を制御すると共に、アポトーシスやネクロプトーシスを誘導して細胞内因子を細胞外に放出して炎症応答を制御する。興味深いことに、この細胞内因子の放出にともなう細胞外シグナルの生成過程にはRabファミリーなどの細胞内小胞輸送系が共役する。本研究では細胞内小胞輸送を介した細胞死の細胞外シグナル形成機構と炎症応答との連関を解析する。

 

1. Tsuchiya Y, Asano T, Nakayama K, Kato Jr. T,  Karin M, Kamata H.

IKKb is an adaptor protein for b-TrCP mediated IkBa ubiquitination in UV-induced NF-kB activation.

Molecular Cell 39:570-82. 2010

2. Kamata H, Honda S, Maeda S, Chang L, Hirata H, Karin M.

Reactive oxygen species promote TNFa-induced cell death and sustained JNK activation by oxidizing MAP kinase phosphatases.

Cell 120: 649-61. 2005

 

(平成27年度)

リソソーム不安定化がもたらす樹状細胞のダイイングコード発信機構と免疫学的重要性

HP用写真反町先生

研究代表者 反町典子 (国立研究開発法人国立国際医療研究センター研究所分子炎症制御プロジェクト)

http://square.umin.ac.jp/Sori_Lab/

樹状細胞におけるエンドリソソームシステムは、外来異物を認識して炎症シグナルを惹起する場であり、これら小胞の品質管理は炎症応答に重要である。本研究では、樹状細胞におけるリソソーム不安定化による細胞死のメカニズムを明らかにし、その結果産生されるダイイングコードとしてのIL-1の免疫学的意義を理解する。免疫応答の司令塔である樹状細胞が発信するダイイングコードの実態とそれによる免疫応答の新たな質的制御機構の解明を目指す。

 

1. Kobayashi T, Shimabukuro-Demoto S, Yoshida-Sugitani R, Furuyama-Tanaka K, Karyu H, Sugiura Y, Shimizu Y, Hosaka T, Goto M, Kato N, Okamura T, Suematsu M, Yokoyama S, Toyama-Sorimachi N.

The Histidine Transporter SLC15A4 Coordinates mTOR-Dependent Inflammatory Responses and Pathogenic Antibody Production.

Immunity 41:375-88. 2014

2. Sasawatari S, Yoshizaki M, Taya C, Furuyama-Tanaka K, Yonekawa H, Dohi T, Makrigiannis AP, Sasazuki T, Inaba K, Toyama-Sorimachi N.

Ly49Q plays a crucial role in neutrophil polarization and migration by regulating raft trafficking.

Immunity 32:200-13. 2010

 

(平成27~28年度)

網膜神経細胞死に起因するシグナルネットワークにおける小胞体ストレス応答の重要性

宝田写真

研究代表者 宝田美佳 (金沢大学医薬保健研究域医学系 神経分子標的学)

http://med03.w3.kanazawa-u.ac.jp/

我々は、中枢神経系病態において小胞体ストレス応答がグリア細胞を介し神経細胞死を制御することを見出している。本研究では、傷害神経細胞がどのように生体内でシグナルを派生させるかを明らかにするため、単一の神経回路傷害による神経変性モデル、視神経挫滅モデルを用いる。傷害神経、下流神経とその周囲グリア細胞間のシグナルネットワークにおける、小胞体ストレス応答の重要性とその分子機構を明らかにする。

 

1. Yoshikawa A, Kamide T, Hashida K, Ta HM, Inahata Y, Takarada-Iemata M, Hattori T, Mori K, Takahashi R, Matsuyama T, Hayashi Y, Kitao Y, Hori O.

Deletion of Atf6α impairs astroglial activation and enhances neuronal death following brain ischemia in mice.

J. Neurochem. 132:342-53. 2015

2. Takarada-Iemata M, Kezuka D, Takeichi T, Ikawa M, Hattori T, Kitao Y, Hori O.

Deletion of N-myc downstream-regulated gene 2 attenuates reactive astrogliosis and inflammatory response in a mouse model of cortical stab injury.

J. Neurochem. 130:374-87. 2014

 

(平成29~30年度)

細胞死に伴い産生されるリゾリン脂質の機能解明

青木先生HP用写真

研究代表者 青木淳賢 (東北大学大学院薬学研究科分子細胞生化学分野

http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~seika/H28/index.html

脂質の機能の一つに、細胞間のシグナル分子としての役割があります。私たちは、新しいタイプのシグナリング脂質、特に、GPCRを介して作用を発揮するリゾリン脂質に注目し、その受容体、産生酵素の同定を通じ、リゾリン脂質の病態生理機能を明らかにしてきました。このような研究の中で、ある種のリゾリン脂質は細胞死に伴い産生されることがわかってきました。本研究では、細胞死に伴い産生されるリゾリン脂質機能の解明を通じ、ダイイングコード領域に貢献したいと考えています。

 

1. Umezu-Goto M, Kishi Y, Taira A, Hama K, Dohmae N, Takio K, Yamori T, Mills GB, Inoue K, Aoki J, Arai H.

Autotaxin has lysophospholipase D activity leading to tumor cell growth and motility by lysophosphatidic acid production.

J. Cell. Biol. 158: 227-33. 2002

2. Bandoh K, Aoki J, Hosono H, Kobayashi S, Kobayashi T, Murakami-Murofushi K,Tsujimoto M, Arai H, Inoue K.

Molecular cloning and characterization of a novel human G-protein-coupled receptor, EDG7, for lysophosphatidic acid.

J. Biol. Chem. 274: 27776-85. 1999

 

(平成29~30年度)

アポトーシス細胞の貪食シグナルに対する負の制御機構とその生理的意義の解明

小田ちぐさ先生HP用写真

研究代表者 小田ちぐさ (筑波大学医学医療系生命医科学域免疫制御医学

http://immuno-tsukuba.com

アポトーシス細胞の貪食は、貪食細胞上の Phosphatidylserine (PS) 受容体が主に担っているが、その制御機構については充分に解明されていない。最近私達は、マクロファージに発現する新しいPS受容体、CD300aがPSと結合して貪食を抑制している、という現象を見いだした。現在、そのメカニズムと、生理学的、病理学的意義を明らかにしようとしている。

 

1. Nakahashi-Oda C, Udayanga KGS, Nakamura Y, Nakazawa Y, Miki H, Iino S, Tahara-Hanaoka S, Shibuya K, Shibuya A.

Apoptotic epithelial cells control the abundance of Treg cells at barrier surfaces.

Nat. Immunol. 17: 441-50. 2016

2. Honda S, Sato K, Totsuka N, Fujiyama S, Fujimoto M, Miyake K, Nakahashi-Oda C, Tahara-Hanaoka S, Shibuya K, Shibuya A.

Marginal zone B cells exacerbate endotoxic shock via interleukin-6 secretion induced by Fcα/μR-coupled TLR4 signalling.

Nat. Commun. 7: 11498. 2016

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

組織幹/前駆細胞の分化による肝臓の再生応答を惹起するダイイングコードの解明

HP用写真伊藤先生

研究代表者 伊藤 暢 (東京大学分子細胞生物学研究所発生・再生研究分野

http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/cytokine/

重篤・慢性的な障害を受けた肝臓は、組織中の幹/前駆細胞が新たに肝細胞を生み出すことで再生すると考えられています。そうした肝再生過程はこれまでマウスモデルでは再現できておらず、解析が進んでいませんでした。我々は、これを実現した新規マウスモデルを用いて、肝細胞の細胞死を起点として幹/前駆細胞の活性化および肝細胞への分化を誘導するダイイングコードの同定と、肝再生の新たなメカニズムの解明を目指します。

 

1. Kamimoto K, Kaneko K, Yuet-Yin Kok C, Okada H, Miyajima A, Itoh T.

Heterogeneity and stochastic growth regulation of biliary epithelial cells dictate dynamic epithelial tissue remodeling.

eLife 5: e15034. 2016

2. Itoh T.

Stem/progenitor cells in liver regeneration.

Hepatology. 64: 663-8. 2016

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

ダイイングコードによる組織破壊・修復バランスの制御機構の解明

菅波先生HP用写真

研究代表者 菅波孝祥 (名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野

http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/mmm/index.html

過栄養により惹起される慢性炎症の結果、脂肪組織や肝臓などの代謝臓器において間質線維化が生じる。我々は、特徴的な組織像(CLS: crown-like structure)が、肥満や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)など代謝性に誘導される間質線維化の起点となることを見出した。本研究では、CLSにおける死細胞とマクロファージの相互作用の分子メカニズムを明らかにする。

 

1. Tanaka M, Ikeda K, Suganami T, Komiya C, Ochi K, Shirakawa I, Hamaguchi M, Nishimura S, Manabe I, Matsuda T, Kimura K, Inoue H, Inagaki Y, Aoe S, S. Yamasaki S, Ogawa Y.

Macrophage-inducible C-type lectin underlies obesity-induced adipose tissue fibrosis.

Nat. Commun. 5: 4982. 2014

2. Itoh M, Suganami T, Nakagawa N, Tanaka M, Yamamoto Y, Kamei Y, Terai S, Sakaida I, Ogawa Y.

Melanocortin-4 receptor-deficient mice as a novel mouse model of non-alcoholic steatohepatitis.

Am. J. Pathol. 179: 2454-63. 2011

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

切断軸索からのダイイングコード

HP用写真久本先生

研究代表者 久本直毅 (名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻生体機序論講座

http://bunshi3.bio.nagoya-u.ac.jp/~bunshi6/matsumoto_japanese/index.html

神経は物理的に切断された軸索を再生させる能力を潜在的に有しており、その機構は種を超えて保存されている。我々は最近、線虫C.エレガンスをモデルとして、切断された神経軸索が「死を意味するシグナル」を用いて神経軸索再生を促進することを発見した。本研究では、その仕組みの詳細について解析することにより、死と再生の間に存在する制御メカニズムについて明らかにする。

 

1. Pastuhov SI, Fujiki K, Tsuge A, Asai K, Ishikawa S, Hirose K, Matsumoto K, Hisamoto N.

The core molecular machinery used for engulfment of apoptotic cells regulates the JNK pathway mediating axon regeneration in Caenorhabditis elegans.

Neurosci. 36: 9710-21. 2016

2. Li C, Hisamoto N, Nix P, Kanao S, Mizuno T, Bastiani M, Matsumoto K.

The growth factor SVH-1 regulates axon regeneration in C. elegans via the JNK MAPK cascade.

Nat. Neurosci. 15: 551-7. 2012

 

(平成29~30年度)

死細胞が残した細胞間シグナルネットワークを介した創傷治癒制御

榎本先生HP用写真

研究代表者 榎本将人 (京都大学大学院生命科学研究科システム機能学分野

http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genetics/

創傷治癒は、代償性増殖、組織リモデリングや細胞運命転換といった多様な生体プロセスが有機的に機能する複雑な生命現象である。すなわち、創傷治癒過程では個々の細胞は互いにコミュニケーションすることで組織損傷の修復や再生を時空間的に制御している。本研究では、ショウジョウバエをモデルとして死細胞が形成した生存細胞間のシグナルネットワークによる創傷治癒の動的制御の解明を目指します。

 

1. Enomoto M, Kizawa D, Ohsawa S, Igaki T.

JNK signaling is converted from anti- to pro-tumor pathway by Ras-mediated switch of Warts activity.

Dev. Biol. 403: 162-71. 2015

2. Enomoto M, Igaki T.

Src controls tumorigenesis via JNK-dependent regulation of the Hippo pathway in Drosophila.

EMBO Rep, 14: 65-72. 2013

 

(平成29~30年度)

障害ミトコンドリアからのダイイングコード漏出による脂肪性肝疾患の進展機序の解明

竹原先生HP用写真

研究代表者 竹原徹郎 (大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gh/resarch.html

本研究課題では、ミトコンドリアからのミトコンドリアDNA(mtDNA)を始めとするダイイングコードの細胞質への漏出が、脂肪性肝疾患の病態進展(肝臓の炎症・線維化・発癌)に与える影響を明らかにする。本研究の遂行を通じて、障害ミトコンドリアからのダイイングコード漏出という視点から脂肪性肝疾患の病態進展を検討し、ダイイングコードの制御を標的とした、脂肪性肝疾患に対する新規治療戦略の開発につなげる。

 

1. Tanaka S, Hikita H, Tatsumi T, Sakamori R, Nozaki Y, Sakane S, Shiode Y, Nakabori T, Saito Y, Hiramatsu N, Tabata K, Kawabata T, Hamasaki M, Eguchi H, Nagano H, Yoshimori T, Takehara T.

Rubicon inhibits autophagy and accelerates hepatocyte apoptosis and lipid accumulation in nonalcoholic fatty liver disease in mice.

Hepatology. 64:1994-2014. 2016

2. Hikita H, Kodama T, Shimizu S, Li W, Shigekawa M, Tanaka S, Hosui A, Miyagi T, Tatsumi T, Kanto T, Hiramatsu N, Morii E, Hayashi N, Takehara T.

Bak deficiency inhibits liver carcinogenesis: a causal link between apoptosis and carcinogenesis.

J. Hepatol. 57:92-100. 2012

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

筋線維芽細胞による死細胞の貪食が組織の線維化に及ぼす影響の解析

仲矢先生HP用写真

研究代表者 仲矢道雄 (九州大学大学院薬学研究院薬効安全性学分野

http://chudoku.phar.kyushu-u.ac.jp/

我々は、組織の線維化を実行するのみと考えられてきた、筋線維芽細胞が、マクロファージと同様に死細胞を貪食し、炎症を抑制するという、「貪食細胞」としての役割を果たす事を見出した。そこで本研究では、筋線維芽細胞を「貪食細胞」して捉え直し、組織傷害時における、筋線維芽細胞の死細胞貪食による性質の変化およびその変化が周囲の細胞に及ぼす影響の解明を目指す。

 

1. Nakaya M, Watari K, Tajima M, Nakaya T, Matsuda S, Ohara H, Nishihara H, Yamaguchi H, Hashimoto A, Nishida M, Nagasaka A, Horii Y, Ono H, Iribe G, Inoue R, Tsuda M, Inoue K, Tanaka A, Kuroda M, Nagata S, Kurose H.

Cardiac myofibroblast engulfment of dead cells facilitates recovery after myocardial infarction.

J. Clin. Invest. 127: 383-401. 2017

2. Nakaya M, Tajima M, Kosako H, Nakaya T, Hashimoto A, Watari K, Nishihara H, Ohba M, Komiya S, Tani N, Nishida M, Taniguchi H, Sato Y, Matsumoto M, Tsuda M, Kuroda M, Inoue K, Kurose H.

GRK6 deficiency in mice causes autoimmune disease.

Nat. Commun. 4: 1532. 2013

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

成体脳のニューロン再生における死細胞の貪食過程とその意義

澤本先生HP用写真

研究代表者 澤本和延 (名古屋市立大学大学院医学研究科再生医学分野/自然科学研究機構生理学研究所神経発達・再生機構研究部門

http://k-sawamoto.com/

脳内で嗅覚情報を処理する嗅球においては、成体においても継続的にニューロンの細胞死とニューロン再生が起こっている。以前我々は、嗅球ニューロンが細胞死によって除去され、同じ場所に同じ種類のニューロンが再生するという嗅覚入力依存的なメカニズムを見出した。本課題では、死んだニューロンを除去して新しいニューロンの再生を助けるミクログリアの役割を研究する。

 

1. Kaneko N, Sawada M, Sawamoto K.

Mechanisms of neuronal migration in the adult brain.

J. Neurochem. 2017

2. Fujioka T, Kaneko N, Ajioka I, Nakaguchi K, Omata T, Ohba H, Fässler R, García-Verdugo JM, Sekiguchi K, Matsukawa N, Sawamoto K.

β1 integrin signaling promotes neuronal migration along vascular scaffolds in the post-stroke brain.

EBioMedicine 16: 195-203. 2017

 

(平成27~28年度、平成29~30年度)

細胞死によって誘導される脳梗塞後の神経修復メカニズム

七田先生HP用写真

研究代表者 七田 崇 (東京都医学総合研究所脳卒中ルネサンスプロジェクト

http://www.igakuken.or.jp/project/detail/stroke-renaiss.html

脳梗塞は、深刻な後遺症や寝たきりの主な原因となっています。脳梗塞では大量の脳細胞死によって炎症が起こりますが、7日後には炎症が収束して修復に向かうというダイナミックな変化が観察されます。前回の公募研究では、脳内における炎症惹起因子の排除が、炎症の収束に重要であることを証明しました。本研究はこれを発展させて、炎症が神経修復作用に転換する分子メカニズムを解明して、新たな脳梗塞治療法の開発を目指します。

 

1. Shichita T, Ito M, Morita R, Komai K, Noguchi Y, Ooboshi H, Koshida R, Takahashi S, Kodama T, Yoshimura A.

Mafb prevents excess inflammation after ischemic stroke by accelerating clearance of danger signals through MSR1.

Nat. Med. in press. 2017

2. Shichita T, Hasegawa E, Kimura A, Morita R, Sakaguchi R, Takada I, Sekiya T, Ooboshi H, Kitazono T, Yanagawa T, Ishii T, Takahashi H, Mori S, Nishibori M, Kuroda K, Miyake K, Akira S, Yoshimura A.

Peroxiredoxin family proteins are key initiators of post-ischemic inflammation in the brain.

Nat. Med. 18: 911-7. 2012

 

(平成29~30年度)

パイロトーシスが関与する稀少疾患の新規遺伝子変異同定と病態解明

北浦先生HP用写真

研究代表者 北浦次郎 (順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター

http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/atopy_center/

我々は、肝臓線維化を主徴とする稀少疾患患者から同定された遺伝子のde novo変異がNLRP1インフラマソームを過剰に活性化させることを見出した。本研究ではNLRP1インフラマソーム活性化亢進の分子メカニズムを解明するとともに、NLRP1インフラマソームの活性化によるIL-1β・IL-18の産生とパイロトーシスの亢進がどのように病態と結びつくかを明らかにする予定である。

 

1. Matsukawa T, Izawa K, Isobe M, Takahashi M, Maehara A, Yamanishi Y, Kaitani A, Okumura K, Teshima T, Kitamura T, Kitaura J.

Ceramide-CD300f binding suppresses experimental colitis by inhibiting ATP-mediated mast cell activation.

Gut 65: 777-87. 2016

2. Izawa K, Yamanishi Y, Maehara A, Takahashi M, Isobe M, Ito S, Kaitani A, Matsukawa T, Matsuoka T, Nakahara F, Oki T, Kiyonari H, Abe T, Okumura K, Kitamura T, Kitaura J.

The receptor LMIR3 negatively regulates mast cell activation and allergic responses by binding to extracellular ceramide.

Immunity. 37: 827-39. 2012