平成26年11月13日(木)東京大学山上会館において新学術領域研究「ダイイングコード-細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明」のキックオフシンポジウムが開催されました。細胞死研究を主導する大物の先生方をはじめ、免疫、炎症、修復、再生の専門家が集い、この類稀なる機会を逃すまいと多くの聴衆が参加し会場は熱気と緊張感に包まれました。
シンポジウムは領域代表である東京薬科大学の田中正人先生のご挨拶および本領域の説明で幕を開けました。苦節7年の時を経て採択に至った本研究領域を通じ、世界に先駆けた研究成果の創出を目標としていること、将来の研究を担う若手研究者育成をしていくとのご説明がありました。
続いて各計画班員の先生方によるセッションが行われました。前半は須田貴司先生(金沢大学がん進展制御研究所)、中野裕康先生(東邦大学)、山口良文先生(東京大学)、袖岡幹子先生(理化学研究所)から多様な細胞死メカニズムと、その生体内における捕捉法に関してご講演がありました。いずれの講演も非常に興味深く勉強になるものばかりでしたが、山口先生のカスパーゼ活性可視化プローブを用いた一細胞レベルでのライブイメージングは特に印象的でした。死にゆく細胞が周囲の生細胞へと与えるシグナル、その結果誘導される生体恒常性維持機構をリアルタイムで追跡できるシステムの構築は、今後の細胞死研究、組織修復過程の解明においてブレークスルーになると感じました。
後半は田中正人先生、山崎晶先生(九州大学)、田中稔先生(国立国際医療センター)、安友康二先生(徳島大学)らによる細胞死を起点とした生体応答・疾患についてご講演がありました。私自身腸管を標的臓器としていることから、田中正人先生のCD169陽性マクロファージの病理的な役割における重要性に関するお話は、興味深く聴かせていただきました。分子シグナルの解析を中心としている私には、死細胞-貪食細胞が創り出す免疫応答、生体恒常性維持機構の解明をするということは、刺激的であり勉強になりました。
最後に特別公演として、アポトーシス研究の第一人者である京都大学の長田重一先生より、アポトーシスにおけるフォスファチジルセリンの暴露と貪食という演題でお話がありました。アポトーシス細胞がマクロファージにより貪食される機構に類似したメカニズムが、赤血球分化やウイルス感染時にも認められることは非常に驚きでした。そして何よりも段階をおいて着実にブラックボックスを明らかにしていく、パズルのピースを組み立てていくストラテジーはとても印象的に残っております。
本キックオフシンポジウムは2回のコーヒーブレイクを挟み、全9演題が行われました。その間も、発表内容に関すること以外にも多くの情報交換や研究に関する議論がなされ、終始熱い時間となっていたように思います。そして、全演題終了後、領域代表である田中正人先生のご挨拶があり本キックオフシンポジウムは閉会となりました。
私自身研究を学び始めて日も浅く、講演内容全てを理解することは困難を極めましたが、本シンポジウムに参加し、大学内では聴くことのできない細胞死を起点とした生体制御ネットワークに関する最新の研究成果を聴くことができ、多くの知識を得ることができました。また今後の研究や勉強に対する意欲が増し、非常に良い刺激を受け、「未知への挑戦をしていくことの楽しさ」を改めて感じることができました。数々の計画的な新規細胞死が明らかとなり、その分子機構や疾患関連性が報告されている今、私たちが細胞死研究のパラダイムシフトの真っ只中にいることを、本シンポジウムを通じて実感しました。
今回得られた多くの知識を活かし、細胞死研究に携わる一学生として新しい研究成果を発表することができるよう励むとともに、本領域の発展ならびに本シンポジウムで発表してくださった先生方から、世界を先導する細胞死研究が次々に生まれることを心より楽しみにして結びとさせて頂きたいと思います。